11. 可観測性

可観測性」とは、システムの内部状態がその出力から推測できる程度の性質を指す。つまり、システムの内部状態が外部から観測可能であるかどうかを示す概念である。
制御工学やシステム工学の分野で、可観測性はシステムの設計や解析に重要な役割を果たす。可観測性が低い場合、システムの状態を正確に把握することができないため、システムの制御や最適化が困難になる。
以下次の状態方程式、出力方程式で考える。システムは\(m\)入力\(l\)出力の線形時不変システムとする。$$\boldsymbol{\dot{x}}(t) = \boldsymbol{Ax}(t) + \boldsymbol{Bu}(t) \;\;\;\; : \boldsymbol{A}(n \times n), \;\; \boldsymbol{B}(n \times m)$$ $$\boldsymbol{y}(t) = \boldsymbol{Cx}(t) \;\;\;\; : \boldsymbol{C}(l \times n) \;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\; \cdots (1)$$

可観測性の定義

式(\(1\))のシステムにおいて、ある有限な時刻\(s\)があり、\(0 \le t \le s\)の間の\(\boldsymbol{y}(t)\)と\(\boldsymbol{u}(t)\)の測定から\(\boldsymbol{x}(0)\)が唯一に決定できるとき、システムを可観測といい、そうでないとき不可観測という。

式(\(1\))のシステムが可観測であるための必要十分条件は、可観測性行列$$\boldsymbol{U}_o = \begin{bmatrix} \boldsymbol{C} \\ \boldsymbol{CA} \\ \boldsymbol{CA}^2 \\ \vdots \\ \boldsymbol{CA}^{n-1} \end{bmatrix} \;\;\; [(n \times l) \times n)]\;\;\;\; \cdots (2)$$のランクが\(n\)となることである。

\(\mathrm{rank}(\boldsymbol{U}_o) \ne n\)と仮定すると、$$\boldsymbol{U}_o\boldsymbol{x}(0) = \boldsymbol{0}\;\;\;\cdots(3)$$を満たす\(\boldsymbol{x}(0) \neq \boldsymbol{0}\)が存在し、式(\(2\))より、\(\boldsymbol{CA}^i \boldsymbol{x}(0) = \boldsymbol{0} \; (0 \le i \le n-1)\)を得る。ここで、\(e^{\boldsymbol{A}t} = q_1(t)\boldsymbol{I} + q_2(t)\boldsymbol{A} + \cdots +q_n(t)\boldsymbol{A}^{n-1}\)の関係を使えば、$$\boldsymbol{C}e^{\boldsymbol{A}t}\boldsymbol{x}(0) \equiv \boldsymbol{0}$$となる。よって、$$\boldsymbol{y}(t) = \boldsymbol{C}e^{\boldsymbol{A}t}\boldsymbol{x}(0) + \int_0^t \boldsymbol{C}e^{\boldsymbol{A}(t - \tau)}\boldsymbol{Bu}(\tau)d\tau$$は、このとき$$\boldsymbol{y}(t) = \int_0^t \boldsymbol{C}e^{\boldsymbol{A}(t - \tau)}\boldsymbol{Bu}(\tau)d\tau$$となり、出力は入力だけに依存し式(\(3\))を満たす\(\boldsymbol{x}(0)\)は、出力と入力だけからは決定できない。従って、背理法により可観測であるためには、\(\mathrm{rank}(\boldsymbol{U}_o) = n\)が必要となる。(※十分条件に関しては省略)

Scilabによる可観測、可制御の判定

状態方程式、出力方程式が次の式で与えられたシステムの可制御性、可観測性を調べる。
$$\boldsymbol{\dot{x}} = \begin{bmatrix} 7 & -12 \\ 4 & -7 \end{bmatrix} \boldsymbol{x} + \begin{bmatrix} 5 \\ 3\end{bmatrix} u$$ $$\boldsymbol{y} = \begin{bmatrix} 2 & -3 \end{bmatrix} \boldsymbol{x}$$Scilabの関数で、可観測性行列を求めるobsy_mat関数、可制御性行列を求めるcont_mat関数を使用する。この可観測性行列、可制御性行列のランクをrank関数を使って求めて、可制御性、可観測性を判定する。

上記のシステムの場合、可観測性行列は、$$\begin{bmatrix} 2 & -3 \\ 2 & -3 \end{bmatrix}$$でランクは1となる。従って、このシステムは不可観測である。
また、可制御性行列は、$$\begin{bmatrix} 5 & -1 \\ 3 & -1 \end{bmatrix}$$でランクは2となる。従って、このシステムは可制御である。

Scilabスクリプト例

//可観測と可制御
clear;
//連続時間システム
A = [7 -12; 4 -7];
b = [5; 3];
c = [2 -3];

//可観測性行列の計算
Ob = obsv_mat(A,c);
nb=rank(Ob);

//可制御性行列の計算
Co = cont_mat(A,b);
nc=rank(Co);

11. 可観測性” に対して1件のコメントがあります。

コメントは受け付けていません。