6. トランジスタの動作原理

バイポーラトランジスタ(BJT:Bipolar Junction Transistor)は、電流を増幅する半導体素子である。BJTは、p型半導体とn型半導体を接合させた3層構造で、NPN形またはPNP形の2つの接合型半導体ダイオード(ベースエミッタ接合とベースコレクタ接合)を組み合わせた構造となっている。
BJTを動作させるには、エミッタとベースの間に電圧を印加する。このとき、ベースに流れる電流は非常に小さいが、コレクタに流れる電流はベース電流の数十倍から数百倍になる。この電流増幅作用を利用して、BJTは電流を増幅したり、スイッチとして使用したりすることができる。

トランジスタの種類

BJTには、NPN型とPNP型の2つの異なる構造がある。
*NPN型トランジスタの構造: NPN型BJTは、3つの領域から構成される。
・エミッタ領域: この領域は高濃度のn型(多数キャリアが電子)半導体で、エミッタ電流(電子の流れ)はここから供給される。
・ベース領域:この領域はp型(多数キャリアが正孔)半導体であり、エミッタとコレクタの間の電流を制御する。
・コレクタ領域:この領域は高濃度のn型半導体で、エミッタからの電子流が集められる。
NPN型BJTは、エミッタとコレクタの間に電流が流れる際、ベースとエミッタの間に小さな電流を制御することにより増幅を行う。ベースとエミッタの間の電圧(ベースエミッタ間電圧、\(V_{BE}\))が一定以上になると、トランジスタはオン状態になり、エミッタからコレクタへ電流が流れる。
*PNP型トランジスタの構造:PNP型BJTも3つの領域から構成されているが、キャリアの種類と電流の方向がNPN型と異なる。
・エミッタ領域:この領域は高濃度のp型半導体で、ホール電流(正孔の流れ)がここから供給される。
・ベース領域: この領域はn型半導体であり、ベース電流(電子の流れ)はここを通る。
・コレクタ領域: この領域は高濃度のp型半導体で、エミッタからのホール電流が最終的に集められる。
PNP型BJTもNPN型と同様に動作する。エミッタからベースへのホール電流が制御され、ベースエミッタ間電圧(\(V_{BE}\))が一定以上になるとトランジスタがオン状態になる。

図1 BJTの構造模式図と回路図記号

図1「BJTの構造模式図」においてn型半導体、p型半導体のそれぞれで多数キャリアだけ表示している。
n型半導体の多数キャリアは負の電荷をもつ電子、p型半導体の多数キャリアは正の電荷をもつ正孔である。

BJTの動作概要

NPN型のBJTについてバイポーラトランジスタの基本動作を説明する。
図2のようにB-E間には電圧を掛けないで、\(V_{CC}\)の正極をBJTのコレクタ(C:n型)に、\(V_{CC}\)の負極をBJTのベース(B:p型)に接続すると、pn接合となっているC-B間の電圧\(V_{CB}\)は逆方向バイアスとなる。(逆方向バイアスについてはこちらを参考にしてください。)そのため。コレクタとベースの接合領域では空乏層が広がり、電子の移動ができない。つまりコレクタ電流\(I_C\)は、流れない。よって、BJTは動作しない状態となる。
図2の状態からSWをONにして電源\(V_{BB}\)を活かすと、図3のようにB-E間に電圧\(V_{BE}\)が掛かりB-E間は順方向バイアスになるため、エミッタ(E)の電子はベース(B)領域に移動し、その電子の一部はベース領域の正孔と再結合し、大部分の電子(約99%の電子)はコレクタ領域へ移動することになる。ベース領域の正孔は電源\(V_{BB}\)の正極から供給される。つまり、ベース電流\(I_B\)が図3の方向に流れる。
エミッタ(E)からベース(B)領域を通過して移動してきたコレクタ(C)領域の電子は、電源の\(V_{CC}\)の正極に移動することになる。電流の方向は電子の移動方向と逆に定義されているので、コレクタ電流\(I_C\)とエミッタ電流\(I_E\)は図3の方向に流れることになる。

図2 BJTが動作しない状態
図3 BJTの動作状態(\(I_C,\; I_E\)が流れる)

※PNP型BJTの場合、正孔と電子を入れ換えて考えれば良い。この場合、電源の接続が変わり、電流の向きが異なってくる。次の項を参照。

BJTの電流の流れ

電流の方向が電子の移動方向と逆に定義されていることに気注意して、BJTの動作を電流の流れについて整理する。
図4「BJTの電流の流れ(NPN型)」より、NPN型BJTの場合、電流はコレクタ(C)からエミッタ(E)に向かって流れる。また、ベース電流\(I_B\)もエミッタに向かって流れる。電流大きさの関係はおおよそ\(I_C = 99\% \;\;\; I_B=1\%\)で、ベース電流\(I_B\)は、ベース領域での電子と正孔の再結合によって消滅した正孔を補うために流れていることになる。従って、$$I_E = I_C + I_B \;\;\; \;\;I_C \gg I_B$$が成り立つ。
図5「BJTの電流の流れ(PNP型)」より、PNP型BJTの場合、電流はエミッタ(E)からコレクタ(C)に向かって流れる。また、ベース電流\(I_B\)はエミッタから流れてくる。電流大きさの関係はおおよそ\(I_C = 99\% \;\;\; I_B=1\%\)で、ベース電流\(I_B\)は、ベース領域での電子と正孔の再結合によって消滅した電子を補うために流れていることになる。従って、NPN型と同様に、$$I_E = I_C + I_B \;\;\; \;\;I_C \gg I_B$$が成り立つ。
結局、NPN型でもPNP型でも、
「BJTは、小さなベース電流\(I_B\)が流れることで、大きなコレクタ電流\(I_C\)、エミッタ電流\(I_E\)が流れる。」
なお、このような素子を電流制御型電流素子ともいう。

図4 BJTの電流の流れ(NPN型)
図5 BJTの電流の流れ(PNP型)

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