16. 磁気の測定

磁気測定は、磁場の強さや特性を評価するための手段で、主に次の2種類の測定法がある。
1)磁束密度の測定:磁束密度とは、単位面積あたりの磁束の量である。磁束密度を測定するには、ガウスメータやテスラメータなどの磁束密度計を使用する。
2)磁場の測定:磁場とは、磁力線の向きと強さを表す。磁場を測定するには、ホール素子や磁気センサなどの磁場センサを使用する。
磁気測定は、モータやスピーカの開発、磁石の特性評価、電子機器の設計など、さまざまな分野で重要である。適切な測定器(フラックスメータやガウスメータ)、サーチコイル、磁気プローブマグネットアナライザーなどを使用して、測定を行う。

磁気特性

磁気特性とは、磁性材料が磁場に対して示す性質のことを指す。磁性材料は、鉄、ニッケル、コバルトなどの元素や合金であり、磁場に対して磁化される性質を持っている。
代表的な磁気特性を以下にまとめる。(図1参照)

磁束密度 (\(B\) [T]):単位面積あたりの磁束の量(単位面積当たりのN極からS極へ向かう磁気の流れ)
磁場 (\(H\) [A/m]):磁気力線の向きと強さ
透磁率 (\(\mu\) [H/m]):磁場の強さに対する磁束密度の割合
保磁力 (\(H_C\) [A/m]):磁化が消失する磁場の強さ
残留磁束密度 (\(B_r\) [T]):磁場を印加した後に磁場を取り除いたときの磁束密度
磁気損失 (\(P_W\) [W/kg]):磁性材料が磁化される際に生じるエネルギー損失

図1 B-H特性

図2で磁性体の磁化について説明する。図のリング状の磁性体で、断面積:\(𝑆\) [\(m^2\)] 、 磁路長:\(𝑙\) [\(m\)] 、 巻線数:\(𝑁\) [回]、電流:\(𝑖\) [\(A\)] 、 磁束:\(\phi\) [\(Wb\)]とする。
このとき、磁界の強さ\(H\)は、$$H = \frac{Ni}{l} \;[A/m]$$ 磁束密度\(B\)は、$$B = \frac{\phi}{S} \; [T]\;([Wb/m^2])$$となる。 

図2 磁性体の磁化

一般に、高い保磁力の物質(硬磁性材料)は永久磁石に、高い透磁率と低い保磁力の物質(軟磁性材料)は電磁石やトランス、コイルのコアに使用される。
また、外部の磁場により磁石になりやすい鉄、ニッケル、コバルトなどの物質を強磁性体という。
図1のB-H特性図で、強磁性体は、外部磁場(磁界\(H\) [A/m])を受けると、磁気のない状態(点0)から、磁気を帯びて磁化される。外部磁場が強くなると磁束密度が増えていくことから、この磁束密度と磁場との比を透磁率という。透磁率が高いほど弱い磁場でも高い磁束密度が得られる。強磁性体に磁場を加えて磁化していくと磁束密度の限界が存在し、これを飽和磁束密度(\(B_m\))といい、飽和磁束密度が高いほど強力な磁石となる。磁束密度が飽和した後、外部磁場を無くしても強磁性体に残る磁束密度を残留磁束密度(\(B_r\))、強磁性体の磁束密度を零にするために必要な外部磁場を保磁力(\(H_c\))と言う。

B-H特性の計測

直流磁化特性の測定は、外部磁界をゆっくり変化させた場合に内部磁束の変化により探りコイル(2次側コイル:巻数\(𝑁_2\) )に発生する電圧を時間積分することで得られる磁束密度からB-H曲線を求めることができる。

図3 B-H特性の計測

その原理を図3 に示す。環状にした試料に励磁コイル(1次側コイル:巻数\(𝑁_1\))を巻き、これに流す励磁電流 \(i\) をゆっくり増加させる。このとき試料に加わる磁界 \(H\) は、次のように\(i\) に比例して増加する。$$H=\frac{N_1 i}{l}$$
\(𝑁_1\):1次側コイル(励磁コイル)の巻数、\(l\):試料の平均磁路長
\(H\)が増加すると磁束\(\phi\)が増加する。探りコイル(2次側コイル)に発生する電圧\(v_s\) は$$v_s = N_2\frac{d\phi}{dt} \;\;\;\;\;\;\; \frac{d\phi}{dt} = \frac{v_s}{N_2} \\ \phi =\frac{1}{N_2}\int v_s dt \propto V_o \;\;\;\;\;\;\; V_o = -\frac{1}{RC} \int v_s dt$$であることから、磁束密度は次のように求まる。$$B = \frac{\phi}{S} = \frac{1}{S N_2}\int v_s dt$$\(𝑁_2\):探りコイル(2次側コイル)の巻数、 \(𝑆\):試料の断面積

サーチコイルによる磁束計測

コイルの位置が変化して鎖交磁束が変化するとコイルに電圧が発生する現象を利用する。(ファラデーの電磁誘導)

図4 サーチコイルによる磁束計測

サーチコイルを磁束\(\phi_0\)と鎖交するように置き、瞬時(短時間\(T_0\)𝑇)に磁界0(磁束0)の場に移動させる。このとき起電力\(v_s\)が発生する。$$v_s =N \frac{d\phi}{dt}$$なので、\( 0 \leq t \leq T_0\)(\(\phi_0 \leq \phi \leq 0\))の範囲で積分すると、\(\phi_0\)が求まる。\(N\)をサーチコイルの巻数として、$$\int_{\phi_0}^{0} d \phi = \frac{1}{N} \int_0^{T_0} v_s dt \\ \phi_0 = -\frac{1}{N} \int_0^{T_0} v_s dt$$ また、$$V_o = -\frac{1}{CR} \int_0^{T_0} v_s dt$$なので、$$\phi_0 = \frac{1}{N}(CR)V_o$$となる。

オペアンプによる積分器

右図において、バーチャルショートの考え方から、$$V_+ = V_-=0 $$なので、$$I_1 = \frac{V_{IN}}{R}\\ -\int_0^t I_1 dt=CV_{OUT} $$よって、 $$V_{OUT} = -\frac{1}{RC}\int_0^t V_{IN}dt$$となる。

ホール素子での磁束密度計測

ホール素子は、ホール効果を利用して磁束密度を計測するセンサである。ホール効果とは、物質に流れる電流に対して垂直方向に磁場をかけると、電流と磁場の両方に直交する方向に起電力が現れる現象である。図5がホール素子を使ったガウスメータの例である。
図6にホール効果の概要を示す。図6の中央の矩形の物体がホール素子、これに赤矢印の方向に制御電流\(I_c\)が流れているとする。図6(上)のように磁界がない時には、図の方向に電子が移動し、制御電流\(I_c\)がそのまま流れる。(電子の移動方向と電流の方向は逆)一方、図6(下)のように磁界を緑矢印のように掛けると、ローレンツ力を受け、図の電子の移動方向に荷電粒子の進む方向が曲げられる。その結果、+側に帯電する面と-側に帯電する面が現れる。このそれぞれの面の電位差(ホール電圧\(V_H\))を測ることによって磁界の発生有無や磁界の強さを計測することができる。

図5 ホール素子を使ったガウスメータ
F41型1軸 / F71型3軸テスラメータ
(㈱東陽テクニカ)
図6 ホール効果

鉄損の計測

変圧器、モータなどの電気機器の材料は、主に鉄と銅である。各材料の主な働きは、
鉄は「磁路の形成」、銅は「電流路の形成」である。図7のように各損失は分類できる。 
ヒステリシス損:鉄心を磁化する際に使われるエネルギー、B-H曲線のループ面積に比例、周波数に比例する。
渦電流損:鉄心に流れる渦電流によって、鉄心にジュール熱が発生し生じる損失、周波数の2乗に比例する。
漂游負荷損:抵抗損、ヒステリス損、渦電流損以外の微小な損失。

図7 電気機器における損失の分類
図8 エプスタイン装置の構成

エプスタイン装置は、電磁鋼板の磁気特性、鉄心材料の鉄損を測定する装置するための試験装置である。図8にエプスタイン装置の構成を示す。エプスタイン装置は、組み込んだ電磁鋼板の試料に磁界を印加し、その磁気特性を測定する。具体的には、一次コイルに電流を流して磁界を印加し、二次コイルに誘起される電圧を測定する。この電圧から、試料の磁束密度、磁界強度、透磁率、鉄損などを計算することができる。鉄損は、$$P_{iron} = P - \left(\frac{V_2^2}{R_V} + \frac{V_2^2}{R_W}\right)$$となる。