11. 1階微分方程式(微分方程式)

簡単な現象論的モデルは1階微分方程式になることが多い。
1.放射性元素の崩壊
放射性元素は一定の割合で崩壊するので、次の1階の微分方程式でモデル化される。$$\frac{dN}{dt} = -\lambda N \;\;\;\; (\lambda \gt 0 )$$ここで、\(N\)は時間\(t\) における放射性原子の数、\(\lambda\)は崩壊定数。この方程式は指数関数的減衰を示し、解は$$N(t) = N_0 e^{-\lambda t}$$である。なお、半減期(半減に要する時間)は、\(\ln 2 / \lambda\)である。いくつもの放射性元素が連鎖崩壊するときには、連立1階微分方程式になる。
2.RC回路(電気回路)
電気回路で最も基本的で重要なRC回路の過渡現象は、1階の微分方程式でモデル化される。抵抗 \(R\)とコンデンサ\(C\) が直列に接続された回路において、コンデンサの電圧\(v(t)\) は次の微分方程式で記述される。$$\frac{dv(t)}{dt} + \frac{1}{RC} v(t) = \frac{E}{RC}​$$ここで、\(E\)は電源の電圧。この方程式の解は、コンデンサの充電や放電の過程(過渡現象)を示す。
※詳細は、8. 動的システム(基礎制御工学)39. 過渡現象(基礎電気回路)を参照ください。
3.空気抵抗を考慮した物体の自由落下
空気抵抗が速度\(v\)に比例する場合、物体の運動は次の微分方程式で表される。$$m\frac{dv}{dt} = mg - kv$$ここで、\(m\)は物体の質量、\(g\)は重力加速度、\(k\)は比例定数。この解は、物体が重力と空気抵抗のバランスに達して最終的な速度(終端速度)を得る過程を示す。
4.人口動態モデル(マルサスモデル)
人口の増加率がその時点の人口に比例すると仮定した場合、人口 \(P(t)\)は次の1階微分方程式で表される。$$\frac{dP}{dt} = rP$$ここで、\(r\)は成長率。この方程式は指数関数的な人口増加を記述しており、解は、$$P(t) = P_0 e^{rt}$$となる。

変数分離型

変数分離型の1階微分方程式とは、$$\frac{dx}{dt} = f(t)g(x) \;\;\; \cdots (1)$$という形の方程式である。これは、$$\frac{1}{g(x)} \frac{dx}{dt} = f(t) \;\;\; \cdots (2)$$と書けるから、\(t\)について積分すれば、$$\int \frac{1}{g(x)}dx = \int f(t)dt \;\;\; \cdots (3)$$となり、一般解が求まる。不定積分は、任意定数を含むが、両辺の積分定数はまとめられる。式(2) で\(g(x)\)で割っているが、\(g(x) = 0\)になる点\(x = a\)の場合を除外している。両辺とも\(0\)になるという意味で、\(x=a\)は式(1)を満たす。これは一般解 式(3)に含まれていないが、一般解の任意定数の極限値として再現できるので、特異解ではない。

同次スケール変換不変型

同次スケール変換とは、\(x \mapsto cx\)、\(t \mapsto ct\)(\(c\)は任意定数)のようなスケール変換のことである。\(dx/dt\)はこの変換に対して不変なので、同次スケール変換不変な1階微分方程式は、$$\frac{dx}{dt} = f\left(\frac{x}{t}\right)\;\;\; \cdots (4)$$と書ける。変数変換\(x = tv\)を行うと、式(4)は、$$t \frac{dv}{dt} + v = f(v)$$となり、$$\frac{dv}{dt} = \frac{1}{t}\left( f(v) - v \right)$$の変数分離型に帰着する。
次の微分方程式を考える。$$\frac{dx}{dt} = \frac{t^2 + x^2}{t x}$$この方程式において、変数\(t\)と\(x\)にスケール変換 \(t \mapsto \lambda t,\;\; x \mapsto \lambda x\) を適用すると、$$\frac{d(\lambda x)}{d(\lambda t)} = \frac{(\lambda t)^2 + (\lambda x)^2}{(\lambda t)(\lambda x)} = \frac{\lambda^2 (t^2 + x^2)}{\lambda^2 tx} = \frac{t^2 + x^2}{tx}$$​となり、方程式の形が変わらないことが確認できる。

線形微分方程式

\(x'\)と\(x\)について線形な1階微分方程式を考える。$$\frac{dx}{dt} + p(t)x = f(t) \;\;\; \cdots (5)$$ここで、\(f(t) \equiv 0\)なら、変数分離型なので、$$x = P(t) \equiv \exp \left(-\int p(t) dt \right)$$と解ける。一般の場合は、変数変換$$x=P(t)v \;\;\; \cdots (6)$$を行うと、\(P'(t) = -p(t) P(t)\)なので、式(5)は、$$\frac{d(P(t)v)}{dt} + p(t)P(t)v = P(t)v' - p(t)P(t)v + p(t)P(t)v\\ = P(t)v' = f(t)$$となる。従って、$$v= \int \frac{f(t)}{P(t)} dt \;\;\; \cdots (7)$$と解ける。式(6)と式(7)から、$$x = P(t)\int \frac{f(t)}{P(t)} dt \\ = \exp \left(- \int p(t) dt \right) \cdot \int \left[ f(t) \exp \left(\int p(t) dt \right) \right] dt \;\;\; \cdots (8)$$である。\(P(t)\)の積分定数は、式(8)ではキャンセルするので、任意定数は式(7)の積分定数のみとなる。

完全微分方程式

全微分\(z = F(x,y)\)の全微分は、$$dz = \frac{\partial F}{\partial x}dx + \frac{\partial F}{\partial y}dy$$である。従って、もし微分方程式を$$\frac{\partial F}{\partial x}dx + \frac{\partial F}{\partial y}dy = 0 \;\;\; \cdots (9)$$のように書ければ、解は$$F(x,y) = C$$で与えられる。式(9)のような微分方程式を完全微分方程式という。

全微分

ある多変数関数 \(z=f(x,y)\) が与えられたとき、\(x\) と\(y\) の値がそれぞれ微小量 \(dx\)と\(dy\) だけ変化した場合の関数 \(z=f(x,y)\) の変化量\(dz\)を、以下のように表す。$$dz = \frac{\partial f}{\partial x} dx + \frac{\partial f}{\partial y}dy$$

微分方程式を$$P(x,y)dx + Q(x,y)dy = 0$$が完全微分方程式であるための必要十分条件は、$$\frac{\partial P(x,y)}{\partial y} = \frac{\partial Q(x,y)}{\partial x}$$である。
・必要条件
方程式が完全微分方程式であると仮定する。つまり、ある関数 \(F(x,y)\)が存在して次が成り立つとする。$$P(x, y) = \frac{\partial F}{\partial x}, \;\;\;\; Q(x, y) = \frac{\partial F}{\partial y}$$このとき、\(F(x,y)\)の混合二階偏微分の対称性(クロネッカーの対称性)を利用する。$$\frac{\partial^2 F}{\partial x \partial y} = \frac{\partial^2 F}{\partial y \partial x}$$.
これを\(P\) と\(Q\) に適用すると、$$\frac{\partial P}{\partial y} = \frac{\partial}{\partial y} \left( \frac{\partial F}{\partial x} \right) = \frac{\partial^2 F}{\partial y \partial x}$$ $$\frac{\partial Q}{\partial x} = \frac{\partial}{\partial x} \left( \frac{\partial F}{\partial y} \right) = \frac{\partial^2 F}{\partial x \partial y}$$したがって、$$\frac{\partial P}{\partial y} = \frac{\partial Q}{\partial x}$$これにより、完全微分方程式であれば、$$\frac{\partial P}{\partial y} = \frac{\partial Q}{\partial x}$$ が成り立つことが示された。
混合二階偏微分:異なる変数で順に微分する二階偏微分を、混合二階偏微分と呼ぶ。 多くの場合、混合二階偏微分において、微分の順番を入れ替えても結果は同じになる。この関係を混合二階偏微分の対称性(クロネッカーの対称性)とよぶ。
・十分条件
$$\frac{\partial P}{\partial y} = \frac{\partial Q}{\partial x}$$が成り立つと仮定し、この方程式が完全微分方程式であることを示す。
\(P(x, y)dx + Q(x, y)dy = 0\)において、関数\(F(x,y)\)が存在し、次を満たすと仮定する。$$P = \frac{\partial F}{\partial x}, \quad Q = \frac{\partial F}{\partial y}$$
\(F(x,y)\)を構築するために、\(P(x,y)\)を\(x\)ついて積分する。$$F(x, y) = \int P(x, y) dx + g(y)$$ここで、\(g(y)\)は\(y\)に関する任意の関数。
\(F(x,y)\)の\(y\)に関する偏微分を計算する。$$\frac{\partial F}{\partial y} = \frac{\partial}{\partial y} \left( \int P(x, y) dx \right) + g'(y)$$ \(\frac{\partial F}{\partial y}\)を\(Q(x,y)\)に等しいと仮定すると、$$Q(x,y) = \frac{\partial}{\partial y} \left( \int P(x, y) dx \right) + g'(y)$$この式から\( g′(y)\)を求める。$$g'(y) = Q(x, y) - \frac{\partial}{\partial y} \left( \int P(x, y) dx \right)$$完全微分方程式の条件 \(\frac{\partial P}{\partial y} = \frac{\partial Q}{\partial x}\)を用いると、\(g′(y)\)は\(y\)のみの関数であり、一貫性が確保される。これにより、関数 \(F(x,y)\)が存在することが示された。

積分因子

積分因子は、微分方程式に適当な関数を掛けることで、もとの微分方程式が完全微分方程式になるようにする関数である。一般的に、積分因子を見つけることは困難である。多くの場合、直観的に試しながら探し出す必要がある。
・1次の2変数微分方程式の一般形
$$P(x, y)dx + Q(x, y)dy = 0$$この方程式が完全微分方程式でない場合、適当な関数 \(\mu(x, y)\)(積分因子)を掛けることで、$$\mu(x, y)P(x, y)dx + \mu(x, y)Q(x, y)dy = 0$$とする。ここで、左辺が完全微分の形になるような \(\mu(x, y)\) を積分因子と呼ぶ。積分因子を用いて、方程式が完全微分方程式になる条件は、$$\frac{\partial (\mu P)}{\partial y} = \frac{\partial (\mu Q)}{\partial x}$$を満たすことである。この条件を満たすように積分因子 \(\mu(x, y)\) を適切に選ぶ。
・積分因子の例
次の微分方程式を解くことを考える。$$-ydx + xdy = 0$$まず、完全微分方程式の条件を確認する。 $$P(x,y) = -y ,\;\;\;\; Q(x,y) = x$$ $$\frac{\partial P}{\partial y} = -1, \quad \frac{\partial Q}{\partial x} = 1$$となる。これは\(\frac{\partial P}{\partial y} \neq \frac{\partial Q}{\partial x}\)なので、完全微分方程式ではない。ここで、積分因子 \(\mu = 1/x^2\)を仮定すると、積分因子を掛けて、$$\frac{1}{x^2}P dx + \frac{1}{x^2}Q dy = 0$$である。具体的に計 算すると、$$\frac{1}{x^2}(-y)dx + \frac{1}{x^2}(x)dy = 0 \\ \left(\frac{-y}{x^2}\right)dx + \left(\frac{x}{x^2} \right)dy = 0$$となる。この変形後の式が完全微分方程式であることを確認し、解を求めれば良い。$$P=-\frac{y}{x^2} ,\;\;\;Q = \frac{1}{x}$$なので、$$\frac{\partial P}{\partial y} = -\frac{1}{x^2} ,\;\;\; \frac{\partial Q}{\partial x} = -\frac{1}{x^2}$$となり、\(\frac{\partial P}{\partial y} =\frac{\partial Q}{\partial x}\)なので、完全微分方程式となる。この完全微分方程式は、$$-\frac{y}{x^2} dx + \frac{x}{x^2} dy = d\left(\frac{y}{x}\right) = 0$$である。よって、$$\frac{y}{x} = C$$(\(C\):定数)と解ける。