12. AIの未来は

PCを個人で手に入れたのが1979年(シャープ:MZ-80K)だった。大学の研究室では、AppleⅡ、ソード、PC-8001などが徐々に使えるようになっていった。実験では、主にボードコンピュータ(TK-80)にA/Dなどを外部拡張して使っていた。その後、会社でIBM-PCやラップトップPCなどにより、計算、文書作成をしていた。当時のPCは非力だったので、シミュレーションなどの複雑な計算では、スパコンを使っていた。その後、インターネットが普及し、PCが計算や文書作成だけでなく、情報収集、情報整理の中核的なツールとなった。このように、PCを中心とした情報技術は仕事、家庭から切り離せないものとなっていった。

さて、AIはどうだろうか。一般の個人からはAIのハードウェアは見えないが、スマホなどを通して生活の一部になってきているように感じる。AIといっても現在の生成AIは、人間の思考の代替ではなく、ネットで収集したデータの切り貼りに過ぎないという主張もある。また、現在のAIは電気エネルギーを消費し過ぎるので、早晩、ビジネスとして崩壊してしまうという主張もある。つまり、シンギュラリティは来ないという主張である。この主張は、技術革新の見積りが偏っているように思われる。まあ、AIが覇権を握る怖さがあるが、シンギュラリティの可能性を考えておくことは大事だろう。
まず、AIの今後の発展の可能性である。生成AIは確かにデータの切り貼りをしている側面が強い。しかし、これは過去の技術進化のパターンを振り返ると短絡的な見方かもしれない。最近の研究では、AIが単なる統計的な予測モデルから脱却し、因果関係を理解しようとする方向へ進化している。例えば、自己教師あり学習や強化学習の発展により、AIが新しいコンセプトを学習し、未知の状況に適応する能力が向上している。
また、汎用人工知能(AGI)の研究も進んでおり、人間のような推論能力を持つAIの実現可能性も議論されている。現在のAIはまだ特定のタスクに特化した「狭いAI(Narrow AI)」の段階にあるが、推論能力の向上や長期的な記憶の導入によって、より汎用的な知的活動が可能になるかもしれない。

次にエネルギー消費の問題だが、これは先に述べたPCの発展時から類推するとどうだろうか。表1,2に消費電力と処理性能の参考データを挙げる。

大型コンピュータ発売年性能メモリ容量消費電力
IBM System/370 Model 1451970約 0.5 MIPS512KB ~ 2MB約 30kW
CDC 76001969約 3 MIPS1MB約 150kW
Cray-11976約 80 MFLOPS8MB約 115kW
表1 1970年代の大型コンピュータ
デバイス処理性能メモリ消費電力
iPhone 15 Pro約 16,000 MIPS (推定)8GB2W ~ 5W
MacBook Pro約 20,000 MIPS16GB30W ~ 60W
表2 2020年代のスマホPC

先に述べたPCの発展時から、エネルギー消費の問題を類推するとどうだろうか。かつてPCが普及し始めた頃、当時のマシンは性能が低く、電力効率も悪かった。しかし、半導体技術の進化により、ムーアの法則が示すように処理能力は指数関数的に向上しながらも、電力効率は大幅に改善された。同様に、AIの計算負荷が高い現状も、ハードウェアの進化やアルゴリズムの最適化によって解決される可能性が高い。実際、量子コンピュータやニューロモーフィックコンピューティング(脳の神経回路を模倣する低消費電力の計算方式)など、次世代の計算技術が研究されており、これらが実用化されれば、AIの消費電力問題は根本的に変わるだろう。
さらに、エネルギーの供給自体も変化している。再生可能エネルギーの普及が進む中で、AIのデータセンターが太陽光発電や風力発電と連携して運用される例も増えている。クラウドコンピューティングの発展により、計算リソースがより効率的に配分されるようになれば、AIのエネルギー消費問題は緩和される可能性が高い。
このように考えると、AIの発展をエネルギー消費の観点から悲観的に見るのは、かつて「PCは計算能力が低すぎて実用に耐えない」と言われていた時代の意見と似ている。むしろ、技術革新によって解決されるべき課題のひとつとして捉えるべきだろう。
このように、AIはPCがかつて歩んだ道と同じく、課題を克服しながら社会に浸透していくだろう。そして、仕事や日常生活の一部として欠かせない存在になる日もそう遠くないのかもしれない。

※AIの発展を考えると、この徒然の意見はすぐに古臭いものになるだろう。また、日を改めて考えてみたい^^;