2. Z変換法
連続時間系でのラプラス変換に相当する変換法として、離散時間系でのラプラス変換であるZ変換法を説明する。良く使用される関数のz変換を紹介する。また、単位時間遅れ、最終値定理など特に重要な性質をまとめる。結果を憶えるのではなく、導出過程を理解するとディジタル制御の解析、設計に役に立つ。
離散時間信号の表現
連続時間信号を\(f(t)\)とする。このときサンプリングされた信号を\(f^{*}(t)\)とする。\(f^{*}(t)\)を\(\delta\)関数を使って表すと$$f^{*}(t)=\sum_{k=0}^{\infty}f(t)\delta(t-kT)=\{f(kT)\} \enspace \enspace (k=0,1,2,\cdots)$$となる。\(T\)はサンプリング周期である。
Z変換法の定義
離散時間信号(ディジタル信号、インパルス列)が、$$f(0),f(T),f(2T),\cdots,f(kT),\cdots$$とすると、そのz変換は、$$F(z)=f(0) + f(T) z^{-1} + f(2T) z^{-2} + \cdots = \sum_{k=0}^{\infty}f(kT)z^{-k}$$で与えられる。また、\(f(kT)\)のz変換を\(F(z)=\mathcal{Z}\{f(kT)\}\)と表記する。
※ラプラス変換の定義式 は、$$F(s)=\int_0^{\infty}f(t)e^{-st}dt$$で、z変換は離散時間信号のラプラス変換である。
Z変換の導出
サンプリング周期\( T=\frac{1}{f_s}\)で生成される単位インパルス関数により、連続時間信号の入力\(u(t)\)の瞬時値をインパルス列\(x(t)\)として抽出する。$$x(t)=u(t)\sum_{k=0}^{\infty} \delta(t - kT) = \sum_{k=0}^{\infty} u(kT)\delta(t - kT) \enspace \enspace (t \ge 0)$$ このラプラス変換は、\(\mathcal{L}\{\delta(t)\}=1\) 及び、時間軸上の平行移動のラプラス変換から、$$X(s) = \sum_{k=0}^{\infty} u(kT)e^{-kTs} $$となる。ここで、\(z=e^{Ts}\) に置き換えるとZ変換の式が得られる。$$X(z)=\sum_{k=0}^{\infty} u(kT)z^{-k}$$
指数関数のZ変換
$$F(z) = \mathcal{Z}\left\{e^{-akT}\right\} = \frac{z}{z - e^{-aT}}$$
指数関数\(f(t)=e^{-at}\)のサンプル値は、\(f(kT)=e^{-akT}\) \((k=0,1,2,\cdots )\)、
定義式から、$$F(z)=\sum_{k=0}^{\infty}e^{-akT}z^{-k}$$ $$=\sum_{k=0}^{\infty}\left(e^{-aT}z^{-1}\right)^{k}$$ $$=\frac{1}{1 - e^{-aT}z^{-1}}$$ $$=\frac{z}{z-e^{-aT}}$$ また、\(F(s)=\mathcal{L}\left\{e^{-at}\right\}=\frac{1}{s+a}\)なので、$$F(z)=\mathcal{Z}\left\{\frac{1}{s+a}\right\}=\frac{z}{z - e^{-aT}}$$とした表記も使う。
ランプ関数のZ変換
$$F(z)=\mathcal{Z}\left\{r(t)\right\}=\frac{Tz}{(z -1)^2}$$
ランプ関数は、時間に比例して増加する関数で、$$r(t)=\begin{cases} 0 \enspace \enspace (t \lt 0) \\ t \enspace \enspace (t \geq 0)\end{cases}$$ なので、そのサンプル値は、$$r(kT)=kT \enspace \enspace (k=0,1,2,\cdots)$$である。定義式から、$$F(z)=\sum_{k=0}^{\infty}kT z^{-k} $$ $$=T(z^{-1} + 2z^{-2} + 3z^{-3} + \cdots)$$ となる。 両辺に\(z^{-1}\)をかけると$$z^{-1}F(z)=T(z^{-2} + 2z^{-3} + 3z^{-4} + \cdots)$$なので、2式を差し引くと$$(1 - z^{-1})F(z) = T(z^{-1} + z^{-2} + z^{-3} + \cdots)$$ $$=\frac{Tz^{-1}}{1 - z^{-1}}$$ よって、ランプ関数のZ変換は、$$F(z) = \frac{Tz^{-1}}{(1 -z^{-1})^2}$$ $$=\frac{Tz}{(z -1)^2}$$
ステップ関数のZ変換
$$F(z)=\mathcal{Z}\left\{I(t)\right\} = \frac{z}{z-1}$$
単位ステップ関数は、$$I(t)=\begin{cases} 0 \enspace \enspace (t \lt 0) \\ 1 \enspace \enspace (t \geq 0)\end{cases}$$ なので、そのサンプル値は、$$I(kT)=1 \enspace \enspace (k=0,1,2,\cdots)$$である。定義式から、$$F(z)=\sum_{k=0}^{\infty}z^{-k}=\frac{1}{1 - z^{-1}} =\frac{z}{z-1}$$
正弦波関数のZ変換
$$\mathcal{Z}\{\cos \omega t\} = \frac{z(z - \cos{\omega T})}{z^2 -2z\cos{\omega T} +1}$$ $$\mathcal{Z}\{\sin \omega t\} = \frac{z \sin{\omega T}}{z^2 -2z\cos{\omega T} +1}$$
オイラーの公式:$$e^{j\omega t} = \cos{\omega t} + j\sin{\omega t}$$ このZ変換は、指数関数のZ変換を使って$$\mathcal{Z}\{e^{j \omega t}\} = \frac{z}{z - e^{j \omega T}}$$ $$=\frac{z}{(z - \cos{\omega T}) - j \sin{\omega T}}$$となる。この式の実部と虚部に分けると $$\mathcal{Z}\{e^{j \omega t}\} = \frac{z(z - \cos{\omega T}) + j z \sin{\omega T}}{z^2 -2z\cos{\omega T} +1}$$である。従って、$$\mathcal{Z}\{\cos \omega t\} = \frac{z(z - \cos{\omega T})}{z^2 -2z\cos{\omega T} +1}$$ $$\mathcal{Z}\{\sin \omega t\} = \frac{z \sin{\omega T}}{z^2 -2z\cos{\omega T} +1}$$となる。
Z変換の性質
単位時間遅れ
信号\(f(t)\)を1サンプル時間\(T\)だけ遅らせて\(g(t)=f(t-T)\)とする。これを\(T\)でサンプリングすると$$g(kT)=\begin{cases} f(kT - T) \enspace (k \ge 1) \\ \enspace \enspace 0 \enspace \enspace \enspace \enspace (k = 0)\end{cases}$$ である。\(g(kT)\)のZ変換は定義式から、$$G(z)=\sum_{k=0}^{\infty}g(kT)z^{-k}=\sum_{k=1}^{\infty}f(kT-T)z^{-k}$$ $$=z^{-1}\sum_{k=1}^{\infty}f(kT-T)z^{-(k-1)}$$ $$=z^{-1}\sum_{m=0}^{\infty}f(mT)z^{-m}$$ $$=z^{-1}F(z)$$となる。すなわち、\(z^{-1}\)を\(F(z)\)にかけることは、サンプリング時間\(T\)だけ遅らせることに相当する。さらに、一般化すると$$\mathcal{Z}\left\{f(t-nT)\right\}=z^{-n}F(z)$$である。
単位時間進み
信号\(f(t)\)を1サンプル時間\(T\)だけ進めて\(g(t)=f(t+T)\)とする。これを\(T\)でサンプリングすると$$g(kT)=f(kT + T) \enspace \enspace (k=0,1,2,\cdots)$$ \(g(kT)\)のZ変換は定義式から、$$G(z)=\sum_{k=0}^{\infty}g(kT)z^{-k}=\sum_{k=1}^{\infty}f(kT+T)z^{-k}$$ $$=z\sum_{k=0}^{\infty}f(kT + T)z^{-(k+1)}$$ $$=z\left\{f(T)z^{-1} + f(2T)z^{-2} + f(3T)z^{-3} + \cdots\right\}$$ $$=z\sum_{k=0}^{\infty}f(kT)z^{-k} -zf(0)$$ $$=zF(z) - zf(0)$$である。すなわち、\(z\)をかけることは、サンプリング時間\(T\)だけ進めることに相当する。さらに、一般化すると$$\mathcal{Z}\left\{f(t+nT)\right\}=z^n\left\{F(z)-\sum_{k=0}^{n-1}f(kT)z^{-k}\right\}$$
推移定理
\(g(t)=e^{-at}f(t)\)のZ変換は、定義式から、$$G(z)=\mathcal{Z}\left\{e^{-at}f(t)\right\}=\sum_{k=0}^{\infty}f(kT)e^{-akT}z^{-k}$$ $$=\sum_{k=0}^{\infty}f(kT)(ze^{aT})^{-k}=F(ze^{aT})$$よって、$$\mathcal{Z}\left\{e^{-at}f(t)\right\}=F(ze^{aT})$$
最終値定理
Z変換の定義は、$$F(z)=\sum_{k=0}^{\infty}f(kT)z^{-k}$$なので、両辺に\(z^{-1}\)をかけると、$$z^{-1}F(z) = f(0)z^{-1} + f(T)z^{-2} + f(2T)z^{-3} + \cdots$$ 辺々差し引くと$$(1 - z^{-1})F(z) $$ $$= f(0) + \left\{f(T) - f(0)\right\}z^{-1} + \left\{f(2T) - f(T)\right\}z^{-2} +\cdots$$ 以上より、$$\lim_{z \rightarrow 1}(1 - z^{-1})F(z) = \lim_{n \rightarrow \infty}f(nT)$$ 最終値定理: $$\lim_{k \rightarrow \infty}f(kT) = \lim_{z \rightarrow 1}(1 - z^{-1})F(z)$$
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