1. 測定と計測、測定の手順と測定例
計測工学とは、対象物から測定したい量を検出、分析、処理、判断するためのシステムの構築、制御、および各構成要素に関する工学である。機械計測、電気計測、化学計測、生物計測、測量、情報工学など多岐にわたる分野で発展している。
計測工学は、測定のための装置や方法を設計・開発し、測定値の解析・処理・判断を行い、最終的に測定結果を利用者に提供するまでの一連の工程である。このため、計測工学には、機械工学や電気電子工学、物理学、化学、生物学、情報工学など幅広い知識と経験が必要である。
機械計測では、機械部品の形状や動作を測定し、製品品質の向上や故障診断に活用される。電気計測では、電気回路の動作や電力の量を測定し、エネルギー管理や電力設備の保守に利用される。化学計測では、化学反応の進行度合いや物質の濃度を測定し、医療や環境保全に貢献している。生物計測では、身体の機能や病気の進行度合いを測定し、医療やスポーツ科学に役立っている。測量では、地形の形状や位置を測定し、土木工学や都市計画に利用される。情報工学では、計算機の性能や通信ネットワークの信頼性を測定し、情報システムの開発や運用に寄与している。
これらの分野で計測工学が支援的・補足的な役割を果たすことが多いため、計測工学自体が専門分野として認知されることは少ないかもしれない。しかし、これらの分野に共通する計測技術の手法を整理し、理解しないと、 あらたな計測手段は生まれないといえる。
計測対象について
計測対象には、物体情報、状態量情報、物質情報、情報キャリアなどがある。
物体情報には、物体の位置、長さ、形状、変位、速度、加速度、振動、力、トルクなどが含まれる。これらの情報は、物体の運動や変形、力学的特性などを測定するために使用される。例えば、位置、速度、加速度を測定することで、物体の運動状態を分析し、振動を測定することで物体の振動特性を分析することができる。
状態量情報には、物体のマクロな状態を定める量が含まれる。例えば、温度、圧力、電場、磁場などがあります。これらの情報は、物体の状態や物理的特性を分析するために使用される。例えば、温度を測定することで、物体の熱的特性を分析し、圧力を測定することで物体の力学的特性を分析することができる。
物質情報には、物質の組成、元素、分子構造、原子構造などが含まれる。これらの情報は、物質の化学的特性や構造を分析するために使用される。例えば、分子構造を測定することで、物質の化学的性質や反応性を分析することができる。
情報キャリアには、電磁波、音波、原子間力などが含まれる。これらの情報は、物質の物理的特性や相互作用を分析するために使用される。たとえば、電磁波を測定することで、物質の電磁波の相互作用や反射を分析することができる。
以上のように、計測対象には様々な情報が含まれる。これらの情報を測定することで、物理学、化学、工学、医学などの分野で幅広く応用されている。
『物理量』と『工業量』
物理量と工業量は、物理学や工学分野において重要な概念であり、それぞれ異なる意味を持つ。
物理量とは、物理学的現象を表すために定義された量であり、大きさと単位で表される。例えば、長さ、質量、時間、速度、力、電圧、電流、温度などが物理量である。物理量は測定可能な量であり、その測定値は実験や観測によって得られる。物理学における一定の理論体系の下で次元が確定し、定められた単位の倍数として表すことができる量であり、物理法則で扱う量といえる。
また、物理量には、スカラー量とベクトル量がある。スカラー量は大きさだけの量であり、例えば、温度や質量などがスカラー量で、ベクトル量は大きさと方向がある量であり、例えば、速度や力などがベクトル量である。物理量は、測定される単位によって表現され、例えば、長さの単位はメートル、時間の単位は秒などとなる。
工業量は、JIS規格で定義されている量の分類であり、工業分野で使われる多くの量が含まれる。工業量を計ることを「工業計測」と呼び、物理量を計ることを「物理測定」と呼んでそれらを区別することも多い。工業量は「複数の物理的性質に関係する量で、測定方法によって定義される工業的に有用な量」であり、硬さや表面粗さなどは工業量である。工業量は工学的な観点からの設計や製造に関する概念でもある。
物理量と工業量は、物理学と工学分野で密接に関連している。物理学的な理論は、物理量を用いて自然現象を説明し、工学的な応用においては、物理量を用いて製品やプロセスを最適化する。例えば、物理量の測定結果をもとに、工業量を計算して製品やプロセスの品質や効率を評価し、最適化することができる。また、物理量と工業量は、測定方法や単位の違いなど、細かな点で異なる場合もある。
測定の手順
測定の手順は、工学実験などを通して習得していると思われるが、適宜、再確認することは測定ミスをしないためにも大切である。
1)何を測定するのか:測定対象を決める
2)測りたいものはどのくらいの量なのか:測りたい量の目安を知り、測定方法を決める
3)どのくらいの精度で測りたいのか:測定の精度(不確かさ)を決める
4)どのような方法や機器で測るのか:測定技術や測定機器を決める
5)測定の実施:結果を予測して測定、複数回の測定
6)測定結果の整理:測定データの再現性の確認
7)測定結果の考察:測定結果の妥当性を検討
※測定対象に応じた測定方法、測定機器を決定することは、特に重要である。適切な測定機器が無い場合は、代替機器で測定手法を考える必要がある。特に新たな測定対象の場合、測定機器の改良や測定機器の開発が必要となり、計測工学の知識が重要となる。
測定と計測
測定と計測は、数値を取得するための科学的方法であり、似ているように見えるが、実際には異なる目的と手順を持っている。
測定は、基準や規格に照らし合わせて数値を定めることを目的としている。これは、定められた基準や規格に合致することを保証するために、品質管理や品質保証の分野で特に重要である。正確で信頼性の高い数値を得ることで、製品の品質や特性を決定することができる。また、測定は、計測に先行する工程であることが一般的である。
計測は、測定から得られた数値を複数の観点や方法から総合的に判断することを目的としている。これは、測定だけでは判断できない製品の特性や品質を評価するために必要である。計測の目的は、製品の性能や品質を評価することであり、数値だけでなく、観察や判断に基づく情報を総合的に判断することが重要である。
※計量:計測の中で、特に取引に使う量のこと(電気、ガス、水道など)を計量という。
身近な測定機器の例
測定機器は多種多様であり、Web上に沢山の測定機器のカタログや説明書がアップされている。現在使用している測定機器だけでなく、関連機器を見ておくことも重要である。また、機器のカタログや説明書も読んでおくと良いと思う。
以下は身近に目にするもの、もしくは身近な製品に組み込まれている測定機器の一部である。
・気温(温度)の測定:アルコール温度計、電子式温度計、放射温度計
・長さ、距離の測定:(接触)物差し、ノギス、マイクロメータ
(非接触)レーザ測長器、カメラ、ソナーセンサ
・時間の測定:発振器(水晶振動子)(日本の国家標準精度:10ー15)
・電力量の測定:電力量=電力×時間 電力量計(スマートメータ)