10. 可制御性

可制御性」とは、制御対象となるシステムが、ある状態から別の状態に制御できるかどうかを表す指標で、状態空間表現において、システムの状態ベクトル\(\boldsymbol{x}(t)\)が、外部から与えられる入力\(\boldsymbol{u}(t)\)によって、全ての状態に到達可能かどうかを示す。
一般的に、可制御性の概念はシステムの状態空間表現に基づいて定式化される。具体的には、可制御性を表すために、可制御性行列が導入される。この可制御性行列は、システムが全ての状態に到達可能であるかどうかを判定するために用いられる。
可制御性の概念は、制御理論や自動制御技術の分野において非常に重要であり、現代制御理論においては、可制御性が高いシステムの制御は容易であり、可制御性が低いシステムの制御は困難である。また、可制御性の概念は、状態フィードバック制御や最適制御などの設計においても重要な概念となっている。
以下次の状態方程式、出力方程式で考える。システムは\(m\)入力\(l\)出力の線形時不変システムとする。$$\boldsymbol{\dot{x}}(t) = \boldsymbol{Ax}(t) + \boldsymbol{Bu}(t) \;\;\;\; : \boldsymbol{A}(n \times n), \;\; \boldsymbol{B}(n \times m)$$ $$\boldsymbol{y}(t) = \boldsymbol{Cx}(t) \;\;\;\; : \boldsymbol{C}(l \times n) \;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\;\; \cdots (1)$$

可制御性の定義

全ての初期状態ベクトル \(\boldsymbol{x}(0)\)と任意に与えられた状態ベクトル\(\boldsymbol{x}_s\)に対し、有限な時刻\(s\) と入力\(\boldsymbol{u}(t)\) (\(0 \le t \le s\))が存在し、それによって、\(\boldsymbol{x}(s) = \boldsymbol{x}_s\)とできるとき、システムは可制御であると言う。そうでないときは、不可制御と言う。

式(\(1\))のシステムが可制御であるための必要十分条件は、可制御性行列$$\boldsymbol{U}_c = \left[\boldsymbol{B\;\; AB \;\; A^2B \;\; \cdots \;\; A^{n-1}B }\right] \;\;\; [n \times (n \times m)]$$のランクが\(n\)となることである。

式(\(1\))のシステムの解は、\(t = s\)のとき$$\boldsymbol{x}(s) = e^{\boldsymbol{A}s}\left[\boldsymbol{x}(0) + \int_0^{s} e^{-\boldsymbol{A}\tau} \boldsymbol{Bu}(\tau) d\tau \right]$$となる。この式に左から\(e^{-\boldsymbol{A}s}\)をかけて整理すると$$e^{-\boldsymbol{A}s} \boldsymbol{x}(s) - \boldsymbol{x}(0) = \int_0^{s} e^{-\boldsymbol{A}\tau} \boldsymbol{Bu}(\tau) d\tau \;\cdots\cdots (2)$$ここで、\(e^{\boldsymbol{A}t}\)は、それを展開したものにケーリー・ハミルトンの定理を使い、\(\boldsymbol{A}\)の\(n\)次以上のべき項を消去すると、$$e^{\boldsymbol{A}t} = q_1(t)\boldsymbol{I} + q_2(t)\boldsymbol{A} + \cdots + q_n(t)\boldsymbol{A}^{n-1}$$となる。\(q_i(t)\)は適当なスカラーの関数である。この式を式(\(2\))の右辺に代入すると、$$\int_0^{s} e^{-\boldsymbol{A}\tau} \boldsymbol{Bu}(\tau) d\tau = \boldsymbol{Bh_1 + ABh_2 + \cdots + A^{n-1}Bh_n = U_c \begin{bmatrix} h_1 \\ \vdots \\ h_n \end{bmatrix}}$$が求まる。なお、$$\boldsymbol{h}_i = \int_0^s q_i (-\tau)\boldsymbol{u}(\tau) d \tau \;\;\; (m \times 1)$$である。
式(\(2\))の左辺は、\(\boldsymbol{x}(0)\)と\(\boldsymbol{x}(s) = \boldsymbol{x}_s\)を任意に与えると\(R^n\)(実数の\(n\)次元)上の任意なベクトルとなる。従って、両辺を等しくする\(\boldsymbol{h}_1 \sim \boldsymbol{h}_n\)、すなわち\(\boldsymbol{u}\)が存在するためには、少なくとも\(\boldsymbol{U}_s\)の\(n \times m\)本の列ベクトルの中に\(n\)本の線形独立なものがなくてはならない。よって、\(\mathrm{rank}(\boldsymbol{U}_c) = n\)が必要になる。
※十分条件に関しての証明は、こちらを参考にしてください。

行列指数関数の展開とケーリー・ハミルトンの定理

行列指数関数の展開:$$e^{\boldsymbol{A}t} = \boldsymbol{I } + \boldsymbol{A}t + \frac{1}{2!}\boldsymbol{A}^2 t^2 + \cdots + \frac{1}{n!} \boldsymbol{A}^n t^n + \cdots $$
ケーリー・ハミルトンの定理:

\(\boldsymbol{A} \; (n \times n)\)の特性多項式を$$\Delta(s) = |s\boldsymbol{I} - \boldsymbol{A} | = s^n + a_n s^{n-1} + \cdots +a_2 s + a_1$$とすると、\(\boldsymbol{A}\)は特性方程式を満たす。すなわち、$$\Delta(\boldsymbol{A}) = \boldsymbol{A}^n + a_n \boldsymbol{A}^{n-1} + \cdots + a_2 \boldsymbol{A} + a_1 \boldsymbol{I} = 0$$が成り立つ。これを、ケーリー・ハミルトンの定理という。

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